　街では誰もが急ぎ足。行き交う人波に押されて戸惑う日常。
休息も許されず、繰り返しの毎日の中で、人は何に憩う。

　行きずりの恋に落ちる歳でもない。背を伸ばしても、手を
伸ばしても届かない、誘惑の翳り。そんな夢物語。
　
　むろん、哀れみだけでも生きてゆけない。人は孤独な旅人。
　道連れにできるのは、切なさと虚しさだけ。
　
　黄昏の空に自分を映し、生きる意味を問いただす。

　厳冬期、渡船で沖へ渡り、来る筈もない魚を追いかける。
　絵空事を映して地で行く蒼き海の光と影。
　
　やがて取り付く島を与えずに、空から天使が舞い降りて、
愛しき者をいづこへか連れ去らん。突然の別離を演出し、
なに故、我が身に不幸と試練を与え給う。
　無情の世とは知りつつ、すがる帷子、返す言葉なし。香
の煙に咽び泣き、虚しき願い、我が想い天に届かん。
　大晦日、君を野辺に送り、我が心、冷えた氷の如くなり。

　遥かなる海よ　果てしなき大地よ　還しておくれ。愛しき
人の胸に抱かれし日々を。古き佳き少年時代。我が魂の
叫びを聞き届けてほしい。

　銀杏の黄、椛の朱、楓の橙、里山を鮮やかに染め抜く木々の
葉たち。海へと続く一本道、山を越え谷を下り、木洩れ日の並
木道をくぐり抜け、車を東へと走らせれば、やがて坂の途中で
拓ける永久なる紺碧の海。
　
　高鳴る鼓動を抑えきれず、丘の上に立ちて眼下を望めば、
入り江と小さな漁村、岬の先には、幾つもの島影。いつもの
風景にいつもの陽射しがやさしく出迎えてくれる。

　灼熱の太陽、ほとばしる波、突然の夕立ち、満天の空に
映し出す大花火。夏の風物詩たちが彩りを添える。
　
　水平線の彼方に揺れる蜃気楼。いつか見た夏の幻影。
　天上高く浮かぶ白雲は、明日をも知れぬ身。陽炎が漂う
道すがら、誘い誘われ木陰でしばしの休息。

　世の柵を捨て去り、気の赴くまま生きてみたいと呟いた。
かく言う己を海はそっと抱き寄せてくれる。

　秋の夕暮れ、その昔、偉大なる俳人が辿った古の道。一句
詠めば我が胸を包む熱き血潮に時を刻む。

　嗚呼、生き急ぐ者たちよ。なに故に儚き命を燃やすのか。
その答えは、とこしえに神のみぞ知る。

　水平線に傾く夕日。人知れず訪れる遠き落日。
夕映えに焼けた雲もやがて消えうせ、さんざめく星たちが顔を出す。
海を照らす三日月と引き潮の対照に、季節の気配を感じとる。

　夜もすがら、とらわれの心を解き放つ晩秋の物語。